前回の記事では、ファーストタッチの概念を「止める」から**「置く」**へとシフトさせることの重要性をお話ししました。
ファーストタッチとは、単なるトラップではない。それは、ボールに触る前に「認知・判断」を済ませ、次のプレーが最も有利になる場所にボールを「置く」知的なプレーである。
この考え方は、まさにサッカーIQの根幹をなすものです。
しかし、「言うは易し、行うは難し」。頭では理解できても、いざピッチに立つと、長年の癖でボールをただ足元に止めてしまうのが現実です。
そこで今回は、この「ボールを置く」という思考と技術を、体に、そして無意識のレベルにまで刻み込むための具体的な練習方法と考え方を、さらに詳しく、ステップバイステップで解説していきます!
Contents
ステップ1:思考のインストール – 親・指導者の『声かけ革命』
全ての始まりは、子供の頭の中を変えることから。どんなに良い練習をしても、本人の意識が変わらなければ効果は半減します。ここで最もパワフルなのが、**私たち大人の「声かけ」**です。
【NGワード】「ちゃんと止めろ!」「トラップがデカい!」
これは「静止させること」が目的の声かけです。子供は失敗を恐れ、小さく、安全に、ただ止めるだけのプレーに終始してしまいます。
【OKワード】「ナイス準備!」「どこが見えてた?」
- 「ナイス準備!(プレパレーション)」
ボールが来る前に首を振っていたら、すかさず褒めましょう!たとえその後のトラップが乱れても、「でも、観ようとしてたのは最高だったよ!」と付け加える。これにより、結果(トラップの成否)よりも過程(観ること)が大事だというメッセージが伝わります。 - 「どこが見えてた?」
プレーが止まった時、問いかけます。「今、相手はどこにいた?」「味方はどこに動いてた?」と聞くことで、子供はプレーを振り返り、**「観るべきだったこと」**を自覚します。答えられなくても責めずに、「次はゴールと味方が見えるといいね」と次につながるヒントを与えましょう。 - 「ボールを“右(左)”に置けて良かったね!」
良いファーストタッチができた時、具体的に褒めます。「トラップが良かった」ではなく、「相手がいない方にボールを置けたから、次のパスがスムーズだったね」と、「なぜ良かったのか」を言語化してあげることが、子供の再現性を高めるカギです。
ステップ2:個のスキルアップ – 遊びながらできる『置く』練習
いきなり対人練習をしても、プレッシャーで頭が真っ白になります。まずは一人、あるいは親子で、遊びの感覚を取り入れながら「置く」感覚を養いましょう。
練習法①:ザ・ファーストタッチ・チャレンジ(一人でも可)
- 自分でボールを少し上に蹴り上げます。
- ボールが落ちてくる間に、強制的に左右どちらかを見る(見るフリでもOK)。
- 見た方向に、ファーストタッチでボールをコントロールします。
- ポイント: 必ず2タッチ以上でプレーする。「置く(1タッチ目)」→「次のプレー(2タッチ目)」のリズムを体に覚え込ませ、足元に止めてしまう癖を矯正しましょう。
練習法②:カラーコーン・デシジョン(親子/二人組向け)
- プレーヤーの左右斜め前1〜2mほどの位置に、色の違うコーン(赤・青など)を置きます。
- パスの出し手は、ボールを蹴ると同時に「赤!」など色をコールします。
- 受け手は、コールされた色のコーンの方向にファーストタッチでボールを「置き」、そこからパスを返します。
【発展形】
- コールを遅らせる: ボールが足元に来るギリギリでコールし、判断スピードを上げます。
- コーンを増やす: 前後左右に4色のコーンを置き、より複雑な状況判断を要求します。
- コールなし: 出し手がアイコンタクトや体の向きで「置いてほしい場所」を伝え、受け手はそれを読み取ってコントロール。より実戦的な「認知」のトレーニングになります。
ステップ3:実戦への接続 – 相手がいる中での『置く』練習
個のスキルが身についてきたら、いよいよ相手がいる状況で「置く」技術を使ってみましょう。
練習法③:1対1+サーバー
- ゴール前にDFが一人、その少し手前にFWが一人、さらにその後ろにパスを出すサーバー(親やコーチ)が立ちます。
- サーバーがFWにパスを出し、DFはパスが出た瞬間にプレッシャーをかけに行きます。
- FWは、ファーストタッチでDFをかわし、シュートを打つことを目指します。
【FWが意識すること】
- パスが出る前に、DFとゴールの位置を必ず確認する(首を振る)。
- DFが右から来ているなら左へ「置く」、左から来ているなら右へ「置く」。
- 足元に止めると100%潰される、という状況を意図的に作ることで、「置く」ことの必要性を体感させます。
練習法④:鳥かご(ロンド)こそ最高の練習
「鳥かご」は、全ての要素が詰まった最高の練習法です。しかし、ただパスを回すだけでは意味がありません。以下の**「ルール」と「問いかけ」**を加えて、練習の質を劇的に高めましょう。
- ルール①:2タッチ以内
これにより、足元に止めている暇がなくなります。「置く」→「蹴る」のリズムが強制的に身につきます。 - ルール②:パスを出した後に動く
パスを出した選手は、必ず少し動いて次のパスコースを作る。これにより、常に周りの状況が変化し、「観続ける」必要性が生まれます。 - 問いかけ:「なぜ今、取られた?」「今のパス、なぜ通った?」
プレーが止まるたびに、成功と失敗の原因を全員で考えます。「ファーストタッチが相手の足元にいってしまったから」「パスの出し手が、受け手の次のプレーを考えて優しいパスを出してくれたから」など、現象の裏側にある「判断」に目を向けさせましょう。
まとめ:『置く』ことは、未来を予測する力
「ボールを置く」技術とは、結局のところ**「未来を予測し、準備する力」**です。
それはサッカーだけでなく、勉強や仕事など、人生のあらゆる場面で役立つ非常に重要なスキルです。
焦る必要はありません。
まずは声かけを変える。次に遊びの中で感覚を養う。そして、少しずつ実戦に近づけていく。
この地道なステップの繰り返しが、子供たちのサッカーをより創造的で、よりインテリジェントなものへと変えていきます。そして何より、「自分で考えてプレーする」という、サッカー本来の最高の楽しさに気づかせてくれるはずです。