「もっと走れ!」
「シュートを打て!」
「なんでパスしないんだ!」
土日の少年サッカーのグラウンド。わが子を思うあまり、つい熱くなって大声で指示を送ってしまう…。そんな光景、見覚えがありませんか?
その声援、本当に子供のためになっているでしょうか。
実は、良かれと思ってやっているその行為こそが、子供の成長を著しく阻害する**「サイドラインコーチング」**と呼ばれる、絶対にやってはいけない行為なのです。
今回は、なぜサイドラインコーチングがダメなのか、その根深い理由を「deepthinking」し、子供の未来のために保護者が本当にすべきことについてお話しします。
Contents
サイドラインコーチングとは?ただの声援との違い
まず言葉の定義から。
「がんばれー!」という純粋な応援や、「ナイスプレー!」という賞賛は、子供の力になります。
問題なのは、具体的なプレーを指示・命令する声です。
- 「右に出せ!」
- 「ドリブルで行け!」
- 「早く戻れ!」
これらが典型的なサイドラインコーチングです。一見、的確なアドバイスに聞こえるかもしれません。しかし、その裏には恐ろしい弊害が隠されています。
弊害1:子供から「考える力」を奪い、指示待ち人間にする
サッカーは、刻一刻と状況が変化するスポーツです。選手はピッチの中で、**「観る(認知)→判断→実行」**というサイクルを、1秒以下のスピードで何度も繰り返しています。
この**「判断」**こそが、サッカーの最も重要な要素であり、面白さの根源です。
しかし、サイドラインから親が「〇〇しろ!」と指示を出すとどうなるでしょう。
子供は自分で状況を判断する前に、親の指示に従うようになります。なぜなら、その方が楽で、失敗しても親のせいにできるからです。
これを繰り返すうちに、子供は**「親(あるいはコーチ)の指示がないと動けない選手」**になってしまいます。ピッチの中で自分の頭で考え、創造的なプレーをする能力は完全に失われてしまうのです。
これは、将来社会に出たときに「指示がないと動けない社員」になってしまうことと同じ構造です。私たちは、わが子をそんな人間にしたいのでしょうか?
弊害2:「2人のコーチ問題」が子供を混乱させる
ピッチには、チームの戦術やトレーニングを統括する**「ベンチのコーチ」**がいます。コーチは、チーム全体のバランスや、その日のテーマに沿った指示を出しています。
そこに、スタンドから**「親コーチ」**の声が飛んでくると、子供は板挟みになります。
- ベンチのコーチ:「今はボールを大事に繋ごう」
- 親コーチ:「ゴチャゴチャするな!前へ蹴れ!」
子供はどちらの指示を聞けば良いのか分からず、パニックに陥ります。結果、プレーは中途半端になり、自信を失い、迷いながらプレーするようになります。
一番信頼すべきベンチのコーチへの信頼感も薄れ、チームの一員としての成長にも悪影響を及ぼすのです。
弊害3:失敗を恐れる「チャレンジしない子」を育てる
サイドラインコーチングは、多くの場合「なぜ〇〇しないんだ!」という否定的なニュアンスを含んでいます。
子供は親の期待に応えようと必死です。親から怒鳴られることを恐れ、「失敗しないプレー」を選択するようになります。
- ドリブルで仕掛ければ抜けるかもしれないけど、取られたら怒鳴られるから、無難にバックパスしよう。
- 難しいシュートを打つより、誰かにパスして責任を回避しよう。
こうして、サッカーの醍醐味である「挑戦」を自ら放棄してしまうのです。
小学生年代は、何百回失敗してもいい時期です。その失敗から学び、次にどうすれば成功するかを考えるプロセスこそが、成長の糧となります。サイドラインコーチングは、その貴重な学びの機会を根こそぎ奪ってしまいます。
弊害4:サッカーが「楽しいもの」から「苦しいもの」に変わる
これが最も悲しい結末です。
子供は「お父さん・お母さんに褒められたい、喜んでほしい」と思っています。しかし、プレーするたびにサイドラインから怒声やため息が聞こえてきたらどうでしょう。
「自分のプレーはダメなんだ…」
「サッカーをやっていると、お父さんが不機嫌になる…」
大好きだったはずのサッカーが、**親の顔色を伺う「苦行」**に変わってしまいます。結果、サッカーそのものが嫌いになり、中学校に上がる頃にはボールを蹴らなくなってしまうケースは、決して少なくありません。
あなたの熱心な声援が、わが子からサッカーを奪う凶器になってはいませんか?
では、保護者はどうすればいいのか?『最高のサポーター』になるための3つの約束
サイドラインコーチングの弊害を理解した上で、私たち保護者がすべきことはシンプルです。
- 指示はコーチに任せる!あなたは黙って見守るプロに徹する
指導はコーチの仕事です。私たちは、どんなプレーにも温かい拍手を送る「見守るプロ」になりましょう。たとえミスをしても、下を向く必要はありません。その挑戦を讃える姿勢が、子供の次への勇気に繋がります。 - 試合後に聞くのは結果じゃない。「楽しかった?」の一言を
「今日の試合どうだった?」と結果を聞く前に、まず「サッカー、楽しかった?」と聞いてあげてください。子供の気持ちに寄り添うことが第一です。その上で、良かったプレーを具体的に褒めてあげましょう。「あの時、勇気を出してドリブルしたの、かっこよかったよ!」のように。 - 子供の最大の『安全基地』になる
試合に負けて悔しい時、ミスをして落ち込んでいる時、子供が安心して帰ってこられる場所。それが家庭であり、保護者の役割です。どんな結果であろうと、無条件の愛情で受け止めてくれる存在がいるという安心感が、子供が再びピッチで挑戦するためのエネルギー源になります。
最後に
サイドラインから声を張り上げるのは、一瞬の自己満足に過ぎません。その声が、10年後のわが子の姿をどう変えてしまうのか。少しだけ想像力を働かせてみてください。
私たちの役目は、ピッチ上の監督になることではありません。子供の人生という長い試合を、いつでも一番近くで応援し、支え続ける世界一のサポーターであることです。
次の試合からは、ぐっと言葉を飲み込んで、わが子の挑戦を温かい拍手で見守ってみませんか?きっと、子供の表情が今までとは違って見えるはずです。